El Salvador Loma La Gloria Natural
月末になり、明け初旬の発送となる定期便と、月毎の銘柄「THE MONTHLY」との準備が始まっています。
この時期は事務処理もいろいろ重なるので、体調を崩したりすると大変なことになります・・
来月、2023年2月の主役は表題の銘柄。品種はパカマラとなります。
コーヒー豆の、主にコモデティ、つまりスペシャルティに対し品質で劣り流通量で大きく上回るクラスの商品について、その評価基準のひとつに「スクリーンサイズ」というものがあります。
ふるいのような網かごをイメージしていただくとよいかと思いますが、その網が粗くなるほどスクリーンの数値は大きくなり、その網の上に残った粒を例えば「16アップ」「19アップ」と表現します。
パカマラはスクリーンサイズで20を超えることもしばしば。一般的なアラビカ品種が16〜18程度なので、その数値でもこの風変わりなコーヒーの個性を見ることができます。
左がパカマラ、右がシドラというティピカとブルボンの交配種。
バキュームパックで見にくいかもしれませんが、生豆の様子です。
ナチュラル精製と水洗式精製で色の違いも見られます。
パカマラをはじめ、マラゴジッペというブラジル産のティピカ変異種を系譜に持つ大粒の品種たちは「エレファントビーン」と呼ばれています。パカマラはパカスとマラゴジッペの、マラカトゥーラはマラゴジッペとカトゥーラの交配。命名センスってなに?
前述のコモデティコーヒーの評価基準でスクリーンサイズは大きいほうが、また別項目で標高は高いほうが、それぞれ優れたものとして評価されます。スクリーンサイズについてはそのまま数値で主張されたり、例えばコロンビアならエクセルソ、スプレモ・エクセルソのような聞き覚えのある名前もこれにあたります。標高に関してはSHB(Strictly Hard Bean)などの表現があります。それらの項目は出荷地により異なります。
この辺の要素は最終的な品質に至る「過程や要因の傾向のひとつ」でしかなく、大粒だから優れている、低標高だから劣るという判断を一概に下すのはあまりにも軽率、或いは酷く時代遅れであると断言します。スペシャルティコーヒーの評価は物理的な欠点の混入率をパスしたのち、採点は基本ブラインド状態でのカッピングで行われます。ここで評価されたクオリティが過程や要因の向こうにある、「最終的な品質」となります。
と、見方をフラットにした上でもパカマラやマラゴジッペといった品種はスペシャルティコーヒー市場で高い評価を得、また価格もひとまわりハイレンジにあることが多くなります。個人的な印象として、特にパカマラは各項目に現れる味覚やフレーバー要素において、その「強度」が一様に高くなっていると感じます。ここでいう強度とは、質ではなく量、もしくは感知し易さにあたる表現だと思ってください。
強くなるのは魅力的な面と、同時に弱点・欠点もこれにあたります。
パカマラの多くは大味な傾向が否めなく、個性的ゆえに消費者を選ぶと、これは日本人らしい優しい表現だと思います。「Rough Mouthfeel」「Onion-Like Flavor」こういった表現が見え隠れするのは主に英語圏のカッピングの現場です。
もし欠点のある素材を扱うなら、それを焙煎加工の中で抑え切れるかという課題と向き合うことになります。
ただ自然科学の世界に錬金術は存在しません。
素材にないものは引き出せない。それは美味しさも、不味さも。
素材の欠点がないもの、完全に回避できるものを見極めれば、求める結果に向けて最短経路が拓かれます。
シエロで扱うパカマラ種はニカラグア・ミエリッヒファミリーの生産するトロピカルでワイニーな低地産(!)、グァテマラ・ウェウェテナンゴの力強くストーンフルーツ系の極めて上質な酸を持つエスペランサ農園産、そしてサングリアのような甘いフルーティーさとセイロンティーの残香を持つエレガントなエルサルバドル、ロマ・ラ・グロリア農園産。
毎年色々な出会いがある中で、結局この3銘柄が数年に渡りレギュラーの座を譲りません。
3銘柄目のロマ・ラ・グロリア(栄光の丘という意味)農園については、いつものイエローハニーに代わって今年はナチュラル精製を入荷しました。
ナチュラルというのは非水洗式とも呼ばれ、コーヒーチェリーの果肉をまとった収穫時の姿のまま最終乾燥までを行う唯一の精製方法。ある要素をバランスとして引き立てるのではなく、素材の持つすべてを余すことなく製品につなげていくナチュラル精製だからこそ、この農園の素晴らしいパカマラの表現にふさわしいのではと考えました。
パカマラやマラカトゥーラのような、大きく豆の表層から中心までの距離がある品種はそれぞれの乾燥状態などとは別の意味で、焙煎環境にも適正さを求めてきます。
加熱のしかたによりその肉厚さが変容した「断熱層」が別要因である含水率と影響し合い、こと浅煎りの仕上げは非常にピーキーとなる傾向があります。シエロの焙煎機はワンオフ機であり、その性能はこういった対象に対し容易に最適解と再現性をもたらすことにコミットして突き詰められました。
文頭、いよいよ本格的にマンスリー銘柄としてローンチするシエロのパカマラ、2022-23ロット。
先行して出荷させていただいた店舗からは絶賛の声も届いています。
「THE MONTHLY」月にひとつの生産者を巡る、それはまるで旅のよう
目の前に現れるそれぞれの光景は、いつも一期一会の感動に満ちています。
是非多くの方に、この体験が届きますように。