Private-lot coffee from Yirgacheffe
こんにちは、いつもありがとうございます。
月替わりの「THE MONTHLY」は、月初リリースの10日前には銘柄を決めて仕入れと生産計画をしていきます。なのでサンプルをつくって検討したり、自分で決めきれないときにはモニターをお願いしたり結構早い段階から準備が始まります。
今回の銘柄はエチオピア、イルガチェフェエリアから選んだプライベートロット。
なんとなくエチオピアでいこうっていうのは決めていて、でも個人的にちょっと警戒心を抱いている生産地なのでしっかり腰を据えてって考えていたら期限ギリギリまで悩むことになって、それでちょっと大変でした。
一粒一粒が小さい・・。聞こえてくる音程も高い
スクリーンサイズでいうと先月のパカマラが19とか20以上、これで14から16?とにかく可愛い
エチオピアといえばアラビカ系コーヒーの原産地で、長らく紅海を挟んだイエメンのモカ港から輸出されていたことはよく知られていると思います。「モカコーヒー」という名前は今でも使われますね。
このモカ港からの原種は独特のフレーバーを持っていて、ある程度深めの焙煎からダークチョコレートのニュアンスが、それを再現だか意識して後発種コーヒーのドリンクにチョコレートを混ぜたのがカフェモカの起源だとか
あとはコーヒーそのもののことを「モカ」と呼んだり、ジャワ島に移植された原種由来のコーヒーをモカジャバ、その生き残りがニカラグアに渡ってジャバニカ、など話題に事欠かない(ややこしい)存在です。
モカコーヒーは歴史的に、このエチオピアとイエメンという2箇所の産地のものが仕分けられ、それぞれ集積ロットとして港でグレーディングされ出荷されていました。
当時麻袋というのはただの運搬用で、今では考えられないですがこの集積地との行き来で何度も使いまわされていたようです。運搬時もそのまま生豆がダイレクトインだったので汚染の問題もあったとか・・・
エチオピアにとってコーヒーって基幹産業で、当時集積所やトランスポーターのいいなりで買い叩かれていた生産者たちを守るべく、およそ15年ほど前に立ち上がったのが国家機関「Ethiopian Commodity Exchange」略してECX。
これは国内生産地の全てをカバーするべく各エリアに集積所・精製所を設け、その産地のコーヒーをグレードで分け、NY相場を反映した健全な価格での取引とエリアまでのトレーサビリティを確立する、大きな一歩だったと言われています。
ここで区切られたエリア=ブランドの例が、シダマであり、カッファであり、レケンプティであり、その中で歴史が浅いながらも特別なクオリティを見せていたのがイルガチェフェでした。
イルガチェフェG1 (最高級グレードのFW精製)G3(同じくナチュラル精製。最近はG1ナチュラルと呼ばれてる)の華やかなテロワールはスペシャルティコーヒー黎明期で既に主役の地位を持ちながらも、実際にはエリア集積のため「誰がつくったの?」「知らんよ」だったのがECXの時代。
で、これがブレイクスルーして、実はまだ5年とか最近なんです。
最初はモカでの港集積。次にECXのエリア集積。それが今はダイレクトトレードも可能に
ダイレクトトレードは大きく分けて農協によるものと、農園単体のもの。結果的に品質が安定して良いのは農協で、やはり設備やノウハウの利点が従来の期待に応えるだけの水準を守ってくれていると感じます。
単一生産者ものも色々で、農協の指導者クラスが自分だけの区画でロットを組んだトップエンドものと、単に「俺はどこにも属さないぜ」ロットとが混在しています。特に後者で・・・品質よりも個性に重点を置いた仕上げが散見されるようになり、我々の仕入れの幅も広がりましたが審美眼を問われる状況になったのも事実です。
この、品質より個性をっていう「お化粧コーヒー」は世界的にトレンドで、コンテストシーンでもレギュレーションの見直しを求める声が上がるほど問題視されています。冒頭に書いた「エチオピアへの警戒心」ですが、あまりの状況の変化で過渡期にあるエチオピアがこの問題の病巣を、わりと根深く抱え込んでいるからで・・・
なので今回の銘柄選定、かなり慎重に、かつ厳しく評価しながら決断までを進めました。
最終的に、リリースしたのは「ふたつのイルガチェフェ」。
いつもどおり「THE MONTHLY」単体でお求めいただく際の銘柄と「200g x 2銘柄」のペアリングにあてるもうひとつの銘柄と、主席と次点で個性の異なるものをセレクトしています。
起源種にして、激動の存在。
比類のないエリア特性と、画一的な評価から解き放たれた個性。
可能ならばそれぞれ異なるふたつが集うことで、その景色はより立体的に楽しんでいただけると思います。
THE MONTHLY Mar.2023「ふたつのイルガチェフェ」
一期一会の旅、よろしければご賞味ください。